企業経営において、従業員の福利厚生は重要な要素です。
その中でも、法人契約の生命保険は、従業員の安心と企業の経営安定化を同時に実現できる魅力的な選択肢として注目されています。
今回は、法人契約の生命保険がどのように福利厚生として機能し、企業にどのようなメリットをもたらすのかを詳しく解説します。
経営者の方々はもちろん、人事担当者や従業員の皆様にとっても、法人契約の生命保険について理解を深める機会になれば幸いです。
法人で考えられる経営リスク
法人で考えられる経営リスクは、たくさんありますが主に3点あります。
経済リスク
金利、為替、物価などのマクロ経済の変動によるリスクです。
特に輸出入業務を行う企業は、為替リスクが大きく、円高や円安が経営に影響を及ぼすことがあります。
景気の動向に敏感な業界では、景気後退時に売上が急減することもあります。
財務リスク
資金調達やキャッシュフローの管理に関するリスクです。
例えば、必要な資金が調達できない場合や、融資の返済が困難になった場合に事業の継続が危ぶまれることがあります。
また、キャッシュフローの管理不足で支払いが滞り、信用を失うリスクもあります。
人材リスク
経営に必要な人材が不足するリスクです。
優秀な人材の確保や維持が難しくなると、業務の停滞や生産性の低下が起き、長期的な成長に悪影響を与えます。
また、経営陣やキーマンの退職・離職によるリーダーシップの欠如も重大なリスクとなります。
法人契約の生命保険とは?基本的な仕組みと特徴
法人契約の生命保険とは、企業が契約者となり、従業員を被保険者として加入する生命保険のことです。
この保険は、企業の福利厚生制度の一環として活用され、従業員とその家族の生活保障を目的としています。
法人契約と個人契約の違い
法人契約の生命保険は、個人契約とは異なる特徴を持っています。
法人保険 | 個人保険 | |
---|---|---|
契約者 | 企業 | 個人 |
被保険者 | 従業員 | 個人 |
受取人 | 企業、従業員の遺族 | 家族 |
保険料の支払い | 企業が負担 | 契約者本人が負担 |
税務上の取り扱い | 保険料が損金算入でき、企業にとって節税効果が期待できる | 特になし |
このように、法人契約の生命保険は、企業の福利厚生制度の一環として活用でき、従業員の保障と企業の財務面でのメリットを両立させる手段となっています。
法人契約の種類
法人契約の生命保険には、主に以下の種類があります。
団体定期保険 | 従業員全体をカバーする最も一般的な法人契約。 企業が保険料を負担し、従業員に対して一定期間の死亡保障を提供。 中小企業から大企業まで幅広く利用され、福利厚生の充実に役立つ。 |
逓増定期保険 | 保険金額が契約後数年間にわたって段階的に増加する保険。 企業の成長に合わせて保障を増やしたい場合に適している。 スタートアップ企業が将来の事業拡大を見据えて加入する。 |
養老保険 | 死亡保障と満期時の生存給付を兼ね備えた保険。 従業員の退職金準備や、経営者の相続対策として活用される。 中小企業のオーナーが自身の退職金確保のために加入することが多い。 |
キーマン保険 | 企業の重要人物(経営者や技術者など)が万一の際に、企業が被る損失を補償する保険。 ベンチャー企業や特定の人材に依存する企業に適している。 |
役員退職金準備保険 | 役員の退職金支払いに備えるための保険。 中堅企業や安定成長期の企業が、将来の資金需要に備えて加入することが多い。 |
企業が法人契約の生命保険を選ぶ際は、自社の規模や事業計画、従業員構成などを考慮し、最適な保険種類を選択することが重要です。
従業員向け:法人保険のメリット
従業員向け法人保険は、企業が提供する福利厚生の一環として、従業員に多くのメリットをもたらします。
福利厚生としての役割
法人契約の生命保険は、企業の福利厚生制度において重要な役割を果たしています。
従業員とその家族の生活保障を支援することで、従業員満足度の向上や優秀な人材の確保ができるでしょう。
具体的には、万が一従業員が亡くなった場合の弔慰金や退職時の退職金の原資として活用でき、従業員は将来の不安を軽減しより安心して働くことができます。
また、入院や手術時の医療保障を含む商品もあり、従業員の健康面でのサポートも可能です。
従業員の保障強化
法人契約の生命保険は、従業員の保障を大幅に強化する効果的な手段です。
通常の個人生命保険と比べ、企業が契約することでより充実した保障内容を従業員に提供できます。
例えば、死亡保障や高度障害保障の金額が個人で加入するよりも高額に設定できるため、万が一の際に従業員とその家族の生活を守ることが可能です。
さらに、企業が保険料の一部または全額を負担することで、従業員の経済的負担を抑えつつ、十分な保障を得られるメリットがあります。
これにより、従業員は自身と家族の将来に対して、より長期的な安心を得ることができます。
退職金代わりの活用
法人契約の生命保険は、退職金の代替として活用することで、従業員の将来設計をサポートしつつ、企業の財務負担を軽減できる効果的な手段です。
従来の退職金制度と比べ、生命保険を活用した退職金準備には以下のようなメリットがあります。
まず、従業員にとっては、在職中に死亡した場合でも遺族に保険金が支払われるため、より手厚い保障が得られます。
また、退職時には解約返戻金を受け取ることができ、退職金と同様の機能を果たすこともメリットです。
企業側にとっては毎年の保険料が損金算入できるため、税務上のメリットがあり、退職金の支払いに備えて多額の資金を社内に留保する必要がなくなり資金の有効活用が可能になります。
法人契約の生命保険を退職金代わりに活用することで、従業員の福利厚生を充実させつつ、企業の財務面での柔軟性を高めることが可能です。
税制上の優遇措置
法人契約の生命保険には、企業と従業員双方にとって魅力的な税制上の優遇措置があります。
企業側 | 一定の条件を満たせば保険料を損金算入できる。 従業員全員を対象とした定期保険型の団体保険の場合、保険料の全額を損金算入できることがあります。 これにより、企業の税負担を軽減しつつ、従業員の福利厚生を充実させることが可能です。 |
従業員側 | 給与から天引きされる保険料は、所得税や住民税の計算時に一定額を所得から控除できるため、手取り額の増加につながります。 具体的には、年間の保険料が10万円の場合、約2万円程度の税負担軽減効果が期待できます。 |
税制優遇を最大限に活用するためには、従業員の年齢や家族構成、企業の財務状況などを考慮し、適切な保険商品を選択することが重要です。
また、近年の税制改正により、一部の保険商品では損金算入の範囲が縮小されているため、最新の税制情報を確認しながら契約を検討することが賢明です。
役員向け:法人保険のメリット
法人契約の生命保険は、企業経営者にとって多様なメリットをもたらす重要なツールです。
主に事業保障、資金調達、節税効果、人材確保の4つの観点から、その利点を詳しく見ていきましょう。
事業保障としての機能
法人契約の生命保険は、事業保障としての重要な機能を持ちます。
特に、キーパーソン保険として活用することで、企業の事業継続を支援する役割があるでしょう。
例えば、創業者や技術開発の中心人物が突然亡くなった場合、企業は大きな損失を被る可能性があります。
このようなリスクに備え、キーパーソンに万が一のことがあった際に保険金が支払われる仕組みが、事業継続のための強力なリスク管理ツールとなるのです。
企業は予期せぬ事態に直面しても迅速に対応し、事業の安定性を維持することが可能となります。
資金調達の手段
法人契約の生命保険は、企業の資金調達手段としても活用できます。
その主な方法は、解約返戻金の活用と契約者貸付制度です。
内容 | メリット | |
---|---|---|
解約返戻金 | 保険契約を解約した際に戻ってくる金額 | 長期間加入していると、まとまった金額になることがあり、緊急時の資金源として利用できる |
契約者貸付制度 | 解約せずに保険を担保として借り入れができる仕組み | 金融機関からの借入れに比べ、審査が簡単で迅速に資金を調達できる |
例えば、季節変動のある事業で一時的な資金不足に陥った際、契約者貸付を利用することで資金繰りを改善できます。
また、設備投資の際の自己資金として解約返戻金を活用するケースもあります。
他の資金調達方法と比較すると、法人保険は担保が不要で返済計画の柔軟性が高いのが特徴です。
節税効果
法人契約の生命保険には、企業にとって大きな節税効果があります。
まず、保険料の全額または一部を損金算入できるため、法人税の課税対象となる利益を減らすことができます。
(例)年間100万円の保険料を支払う場合、法人税率30%の企業では30万円の節税効果が得られる
また、従業員への福利厚生として活用すれば、給与として支給するよりも税負担が軽減されます。
保険金や解約返戻金を受け取る際も、一定の条件下で非課税や低税率での課税となり、所得税の面でもメリットがあるのです。
ただし、節税効果を最大限に活用するには、契約内容や加入目的を適切に設定する必要があります。
また、税制改正により取り扱いが変更される可能性もあるため、最新の情報を確認することが重要です。
福利厚生で法人生命保険を導入する場合の注意点
法人契約の生命保険は、従業員の福利厚生や企業のリスク管理に有効な手段ですが、導入にあたっては注意点があります。
保険料負担の問題
法人契約の生命保険における保険料負担の問題は、企業と従業員双方に影響を与える重要な課題です。
企業側では、保険料の全額負担が財務に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(例)従業員100人の中小企業が1人当たり月5,000円の保険料を負担する場合
年間600万円のコストがかかる
従業員側では、保険料の一部を給与から控除される場合、手取り収入が減少するという問題があります。
(例)月々の給与から3,000円が控除されると、年間36,000円の収入減となる
この問題に対する一般的な解決策として、企業と従業員で保険料を分担する方法があります。
例えば、7:3の比率で負担を分け合うことで、双方の負担を軽減できるでしょう。
また、従業員のニーズに合わせて加入を選択制にすることで、不要な保険料負担を避けることも可能です。
解約返戻金の取り扱い
法人契約の生命保険における解約返戻金の取り扱いは、企業の財務に大きな影響を与える可能性があります。
解約返戻金は、契約期間や払込保険料によって変動し、例えば契約開始直後は解約返戻金が少なく、時間の経過とともに増加するでしょう。
会計処理上、解約返戻金は特別利益として計上されます。
ただし、税務上は一時所得として扱われ課税対象となる場合があり、企業の当期純利益や税負担に影響を与える可能性があるでしょう。
解約返戻金の取り扱いを適切に理解し管理することで、企業は財務計画をより効果的に立てることができます。
従業員の退職時の対応
従業員の退職時には、法人契約の生命保険の取り扱いについて適切な対応が必要です。
一般的に、以下の3つの選択肢があります。
1. 退職金として保険金を活用する場合:解約返戻金を従業員に支払うことが可能。ただし、退職金規程に基づいて処理し、適切な税務処理を行う必要がある。
2. 従業員が個人で契約を継続する場合:保険契約の名義変更手続きを行い、以後の保険料は従業員が負担する。継続加入により、既存の保障を維持できる。
3. 企業が契約を継続し退職者を被保険者としたまま保険を維持する場合:退職者の同意が必要。
解約返戻金の取り扱いには注意が必要で、企業の所得として計上される可能性があるでしょう。
また、従業員への支払いは給与所得として扱われる場合があります。
企業は従業員の意向を確認しつつ、最適な選択肢を検討することが重要です。
一方、従業員は自身の保障ニーズと財務状況を考慮し、継続加入や解約返戻金の受取りを検討しましょう。
契約内容の見直しの必要性
法人契約の生命保険では、定期的な契約内容の見直しが不可欠です。
企業の状況や従業員の構成は常に変化するため、保険内容が現状に合わなくなる可能性があります。
例えば、業績悪化で保険料負担が重くなったり、従業員の年齢層が上がって保障内容が不十分になったりすることがあります。
見直しのタイミングとしては、決算期や人事異動の時期がおすすめです。
主なチェックポイントは、下記の通りです。
・保険料の妥当性
・保障内容の適切さ
・受取人の確認 など
特に、役員や幹部社員の退職・入社があった場合は要注意です。
契約見直しを怠ると、過剰な保険料負担や不十分な保障といったリスクが生じます。
定期的な見直しで、常に最適な保障を維持することが重要です。
法人保険の選び方と導入のポイント
法人保険の選び方と導入のポイントを紹介します。
企業のニーズに合わせた保険選び
企業のニーズに合わせた保険選びは、法人契約の生命保険を導入する上で極めて重要です。
例えば、中小企業では役員の退職金準備や事業承継対策が重視される一方、大企業では従業員全体の福利厚生強化が主な目的となることがあります。
保険選択の際は、まず自社の課題を明確にし、それに対応する保障内容を持つ商品を探すことが肝心です。
同時に、保険料と保障のバランスを考慮し、企業の財務状況に見合った契約を結ぶことが大切でしょう。
また、将来の事業拡大や組織変更なども視野に入れ、柔軟性のある保険を選ぶことをおすすめします。
従業員の年齢層や家族構成の考慮
法人保険の選び方と導入のポイントにおいて、従業員の年齢層や家族構成の考慮は非常に重要です。
例えば、20代から30代の若手従業員が多い企業では、死亡保障よりも医療保障や介護保障に重点を置くことが効果的でしょう。
一方、40代以上の中堅社員が中心の企業では、家族の生活保障を重視した死亡保障を充実させるべきです。
また、未婚者と既婚者、子育て世代と子育て卒業世代では、必要な保障が異なります。
厚生労働省の統計1によると、30代の約6割が既婚者であり子育て世代が多いこと分かります。
このような従業員には、配偶者や子どもの保障を含めた総合的な保険プランが適しているでしょう。
従業員の年齢層や家族構成を定期的に調査し、それに応じて保険プランを見直すことで、より効果的な福利厚生制度を構築することが可能です。
保険会社の選定基準
法人契約の生命保険を選ぶ際、保険会社の選定は重要なステップです。
まず、財務健全性を確認することが不可欠、保険金支払い能力を示すソルベンシー・マージン比率2などの指標を参考にしましょう。
次に、カスタマーサポートや契約管理サービスの質も重要な基準です。
法人向けの専門スタッフの有無や、オンラインでの契約管理システムの充実度をチェックしましょう。
法人契約特有の観点では、税務メリットを最大化できる商品設計や、福利厚生制度との連携のしやすさなども選定基準となります。
これらの要素を総合的に評価し、自社に最適な保険会社を選ぶことが大切です。
専門家のアドバイスの活用
法人契約の生命保険を選択する際、専門家のアドバイスを活用することは非常に重要です。
保険コンサルタントや税理士、リスク管理の専門家に相談することで、自社に最適な保険プランを見つけることができます。
これらの専門家は、企業の財務状況や従業員構成を考慮し、適切な保障内容や保険料を提案してくれます。
専門家に相談する際は、自社の経営方針や将来のビジョンを明確に伝え、具体的な数字や資料を用意することで、より的確なアドバイスを得られるでしょう。
従業員の福利厚生としての法人保険活用事例
養老保険に加入した場合
養老保険は、一定期間が満了すると満期保険金が支払われる一方、従業員がその期間中に死亡した場合は死亡保険金が支払われる保険です。
被保険者:従業員
満期保険金受取人:法人
死亡保険金受取人:従業員
保険金額:600万円
保険会社から600万円の満期保険金が法人に支払われ、満期保険金を退職金として支給する。
保険会社から600万円の死亡保険金が、死亡退職金として従業員の遺族に支払われる。
医療保険に加入した場合
医療保険は、病気や怪我で入院や手術を行った際に、医療費の一部を補填する保険です。
被保険者を従業員として法人が加入した場合、下記の場合に支払われます。
・ケガで入院した場合の治療費や入院費として支払われる
・医療保険の給付金を見舞金として支給できる
福利厚生プランの経理処理
法人保険の養老保険・定期保険の経理処理について紹介します。
養老保険の経理処理
法人の養老保険については、下記の記事に詳細が載っているため、参考にしてください。
定期保険の経理処理
法人の定期保険については、下記の記事に詳細が載っているため、参考にしてください。
30万円特例
法人生命保険の30万円特例については、下記の記事に詳細が載っているため、参考にしてください。
まとめ
法人契約の生命保険は、従業員の福利厚生と企業の経営安定化を両立させる有効な手段として注目を集めています。
企業が契約者となり、従業員を被保険者とするこの仕組みは、従業員とその家族に安心を提供するだけでなく、企業にも多くのメリットをもたらすでしょう。
従業員の士気向上や優秀な人材の確保、さらには財務面での利点など、その効果は多岐にわたります。
福利厚生の充実を通じて、従業員と企業がともに成長していく未来への第一歩として、法人契約の生命保険の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
脚注
本コンテンツは情報の提供を目的としており、保険加入その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。保険商品のご検討にあたっては、「契約概要」「注意喚起情報」「ご契約のしおり」「約款」などを必ずご覧ください。
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